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 その静かな夜に黄色い光は荒れ狂っていた。黄色い光と黄色い洪水が大きく空気を揺るがし黄泉の国から湧きあがってきた様な低い音を胸腔に反響させた。所々では水が大きく蜷局を巻いた。私は陸地を探そうともしたのだが、そんなものがこの嵐の中慎ましやかに存在する道理も無いのだった。狭い胸内で何故これ程超自然的な営みが展開するのか。だがこれは私が想像できるうちで最も激しく人情味のない原始の世界の姿だ。これは現実ではない、バーチャルだ。 ( いかずち ) は一瞬で灰色の雲を暴いて海を貫いた。波があちこちで倒れて飛沫が散る。生ぬるく汚い水が防ぐ術なく注ぎ込み黄色い海の一部になってゆくので多分海面は少しずつ上昇している。
あるべき陸地が一つ残らず底の方で藻屑となってしまっただろうという予想は、ナルシシシズムに絶望的な自己封鎖を要請するものである一方で、かのおぞましい獣が立って手を振る場所が無いという点において救われるものだ。実際既に言葉を発せない程度にまで汚水に浸食されていたが、気持ちには僅かに晴れ晴れとした部分があった。二度と繰り返されることはあるまい。 ( ) の獣の存在、彼の獣のにたつき、そして脅迫。しかし私に幸せな思いを巡らせる時間はそんなに用意されていない。水がだんだん かさ を増してきたからだ。海は、黄色い海はいつのまにか速度を増しながら胸壁を上ってゆき、あと十分もすれば天頂に到達する勢いだ。波の衰えは見られない。自分の中に芽生えた一種の至福に気付いたせいか私は、そろそろこの嵐を終わらせなければいけない時が来ることだと思った。水は注ぎ込んできて、本当にどこから注ぎ込んでくるのか分らないのだけれども、段々息が苦しくなった。
あと三分くらいで荒れ狂った洪水が腔を埋め尽くすといった頃に、しかし、急に全体が収束に向かう兆候が現れ始めた。すなわち徐々に轟音が断続的になり、黄色い光は回転速度を緩めた。海の上昇も遅くなった。注ぎ込む水の絶対量が尽きようとしているのだろうか。海は最早畏怖すべき身勝手さを失いそうな予感すら与える。待て、尽きる?そんなことがあるか?それは予想の領域外だ。私は、事実としては自分の味方である筈の展開に訳の分らぬまま焦っている自分に気付いた。(既に自己封鎖へ向かっていた私は今更どうすれば良いのだろう。)何も裏切っていないと薄々感じながら何故裏切るのかなどと心で叫んでみる。根拠のない主張こそ意志があるのだ。兎に角、言えることは、状況は先程よりも悪化したということだ。ついにこの世界も…。波だけは相変わらず恐ろしいほどうねっていた。過剰の水にやがて胸壁が耐え切れなくなり一気に破裂するのを落ち着いて待とうと私は覚悟していたのだった、だが今となってはそれが叶わない。
その時、何か薄い布切れの様なもののゆらめいているのが視界の端を掠めた。一瞬でその位置を把握することは不可能だったので一旦目を閉じ思い出そうと思ったけれども、目を閉じた時すでにその残像は失われていた。私にはそれが何かを教えている様に思えてならなかった。何故ならこの映像もまた決して現実ではないから。私の過去の結び目のうちの一つか、あるいはまだ見ぬ将来の傷が生きている証拠にちがいない。
そこへ、しばし忘れられていた ( いかずち ) が最後の一撃を与える。そうそれこそ、布切れの在り処を象徴する、今や貴重な、強い刺激だ。胸腔の壁を伝う非常に電気的な刺激がまず、すべてを転覆させるのに成功した。そして、共振した大きな波が一瞬で天に届く程の柱を作り、世界を飲みもうとした。そう、転覆だ。あらゆる焦燥、あらゆる自己満足、あらゆる傲慢、あらゆる矛盾の転覆。全体がようやく調和仕掛けた後にやってくるのは転覆なのだ。奴はそれを見抜くことが出来る。カオスは本当は矛盾を許していない。カオスは本当は気絶する直前。巨大な柱は、汚い海の水の殆どを吸い上げて、黄色い光までもその中へ取り込み、黄泉の轟きを吸収し、1つの全体としてまとめあげた。
こうして、胸腔の中の一切は原型に別れを告げて、新たな展開の材料になるべく、世界を覆ったのだった。いうなれば極めて無に近い大混乱。そしてこれこそが、無限の繰り返してきた何度目かの序章。私の中の超自然。私は五感と他の感覚を総動員してまだこれを知るだろう。内なる狂気を開放しなかった懲罰が一体あるのかどうか、いつか抜け得るのかどうか。胸腔を揺るがす悪夢の類の夢。夢? いや、細胞一つ一つが少しずつ疼いている、かすかな実体。それはたとえば布切れなのだけれど、そのヒントを与えて穴の無い世界は転覆した。これが私の証言だ。
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風が鳥に絡まって
ひゃあと宙返り


目覚ましは
まだだと
思った

電車は
とっくに
平日へ発った

そろそろ
もぐらの学校が始まる



カーテンを開こう

隣人の歌
のびやかに

のびやかに
このまま
春に

妖精を呼んでいるのか
それ自身が幻なのか
宝石だらけの街は
真っ白な壁にオレンジのタペストリーがよく映える部屋に、
一人には大きすぎるベッド、薄いプラズマテレビ、コーヒーメーカー、
それだけ揃っていて、私には完璧。



---×年○月△日---

太平洋の真ん中の異国の空の下
忘れかけたような島は
海が溶けた風を纏う
などと書くと
どこかにこんな小説があったような
こんな美しい世界の中に
どうして招かれたのか

南国の空気は海を包括する
あたたかくて
抜ける訳でもなく
留まる訳でもなく
ただ あった

何にも繋がれなくなった体を
真っ白のシーツに預けて
壁一面の窓ガラスの向こうに
確かに 世界を見ていた

ただ 幹が聳えるだけ
ただ ヤシの葉がそよぐだけ
ただ 雲が静かに擦れるだけ
ただ 小鳥がじゃれ合うだけ

忘れていいともいわれない
思い出せともいわれない

ただ どこまでもリアルな
やわらかな日差しが
過去も未来もなく
ただ あった

壁一面の窓ガラスは
すべてを通す
私の体も
すべてを通す
そうしてなにかが
失われないまま
広がっていた

ねえ
生活の中に もともとあった隙間を
せっかく長い間かけて 詰めていたのに
フッと油断をしたら あたたかいものに包まれて
ふわっと 隙間が広がっていく

ああ
あるということは
呆れるほどに超越的
そして 無責任
世界はなにも否定しない
否定したふりをするのは言葉だけ

美しい と言って
無条件降伏する

世界は何度も嘲りながら
でも捨てようとすると
こうして必ず迎えにくるから

ただ 幸せすぎて泣いてしまう
何より 世界に恋していた
きっと 真面目なままで

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